日本同様に米国でもガソリン代が上がり、食品の値段も不安定という生活実感の中で、米国の消費者の行動が変わり始めています。マーケティングプラットフォームIbottaが数百万件の購買データをもとにまとめた2026年サマーアウトルックによれば、消費者は「支出を減らす」のではなく「支出を賢く組み替えている」という姿が浮かび上がります。外食や旅行より自宅での食事やバーベキューを選び、衝動買いより計画的な購入へ。
そしてガソリン価格が2月から25%以上上昇する中、約21%の消費者が食費を削ることで家計を調整しています。別のIbottaの調査では、消費者の62%が「ブランドより価格を優先する」と答えており、ブランドロイヤリティの構造的な低下が数字としても見えてきています。



3億人を超える消費者市場が存在する米国では、その動向に小売業界は敏感でなくては生存し続けることはできません。今回は、中古市場の急成長、大手ブランド同士の統合、そしてリアル店舗の再生という、三つの事例から小売業界のチャレンジを紹介させていただきます。
*Ibottaのデータは自社の購買レシートデータをもとに分析したレポートです。クーポン感度の高い層に偏りがある点は留意してください。
変化その① 中古品が「賢い選択」になった
日本でも中古品の売買が盛んですが、米国も同様で、その最前線にいるのが、ThredUp(スレッドアップ)です。米国最大級のオンライン古着プラットフォームです。個人が出品して売買するのではなく、同社が商品を一括で仕入れ・検品・販売する点が特徴です。ブランド品から普段着まで、最大90%オフで購入できます。
2026年第1四半期、ThredUpはアクティブバイヤー数が過去最多の171万人(前年比25%増)、売上高が前年比15%増の8,170万ドルという力強い結果を出し、通年の見通しも上方修正しました。「まず中古を考える」という消費者の行動変容が、数字として現れています。
この市場拡大を後押ししているのは、専業プラットフォームだけではありません。Zaraも「Zara Pre-owned」という公式の中古売買プラットフォームを展開し、修理・個人間売買・寄付・中古品購入をアプリや公式サイトから一括で提供しています。「すべてのZaraの服が再利用・再生される世界を目指す」と同社のサステナビリティ責任者は語ります。かつて使い捨ての象徴だったファストファッションが、自ら循環型消費の旗振り役になる、この変化が「中古を買うことへのハードル」を一気に下げています。ThredUpの快進撃は、こうした業界全体の変化の恩恵でもあると言えます。

“ThredUp Will Open New 10-Million-Item Flagship Distribution”
変化その②「理念」と「スケール」の衝突
ファストファッションECがサステイナブルブランドを買収
一方で、この価値志向の時代の「矛盾」を象徴する出来事も起きました。中国発のファストファッションECであるShein(シーイン)が、「倫理的なファッション」を掲げてきたEverlane(エバーレーン)を買収したのです。
Sheinは10ドル以下のトレンドアイテムを大量に展開し、TikTokと連動した超短サイクルの商品供給で若い世代を中心に世界的な支持を集めています。対するEverlaneは、サンフランシスコ発のD2Cブランドで、工場情報や原価まで公開するRadical Transperancy(徹底した情報開示)とサステナビリティを差別化軸としてきたので、これら2社は真逆のブランドと言えます。
なぜSheinはEverlaneを買収したのか。
これは言うまでもなく、米国でのブランドポジション強化と上位価格帯への参入が目的です。Everlaneにとっては、長年の低迷を経た事実上の救済で、買収額は約1億ドルと、Eコマース全盛期の評価からは大幅な値引きでした。Everlaneのファンの間では「ブランドへの裏切り」という声が上がっていますが、「独立ブランドとして継続し、サステナビリティへのコミットメントも変わらない」とCEOは声明を出しています。
Everlaneが切り開いた「サステナブル・エシカルファッション」という市場には、大手ファストファッションも「サステナビリティ」を掲げて参入し、競合が激化しています。さらには、D2C全体が広告費高騰で苦しくなった時代の波とも重なり、先駆者であることの優位は少しずつ失われていきました。透明性と倫理を差別化軸にして消費者の指示を得てきたブランドが、競合の激化と市場環境の変化の中で行き詰まったとき、その先に何が待つのか。Sheinがその物語を活かせるかどうかが、今後の焦点になってくるのではないでしょうか。
変化その③ リアル店舗の新たな再生のカタチ〜二つのブランドによる、異色の再生劇〜
消費者が「賢く選ぶ」時代に、リアル店舗はどう生き残るのか。
その一つの答えが、ブランドを掛け合わせることです。そしてこの動きを象徴するのが、どちらも一度は経営破綻を経験した二つのブランドによる、異色の再生劇です。
Bed Bath & Beyondは、寝具・バス用品・キッチン用品などを扱う大型ホームストアで、リアル店舗の全盛期には「青いクーポン」で知られ、新婚家庭の定番ショッピング先として米国中に根付いていました。The Container Storeも、収納・整理収納ブームの象徴として熱狂的なファンを持ち、新店がオープンするたびに行列ができるほどの人気を誇っていました。
その両社が、時代の変化(Eコマースの台頭と消費者行動のシフト)に乗り遅れ、ともに経営破綻を経験しました。Bed Bath & Beyondは2023年に全店舗を閉鎖後、オンラインで余剰商品をリーズナブルな価格で販売するOverstock.comによる買収で、オンライン専業として再建。The Container Storeも2024年末に破綻し、その後Bed Bath & Beyondが約1億5,000万ドルで買収を発表(2026年7月完了予定)し、この二つのブランドを組み合わせた複合店舗へと舵を切りました。
テキサス州フォートワースで初の店舗がオープンし、両社の強みを合わせた「Everything Home(すべてがここに)」が実現しました。かつて一世を風靡した二つのブランドが、ともに倒れた末に一つの店舗として蘇ろうとしています。

冷静に見れば「うまくいかなかったもの同士が組んでも」という懸念は拭えませんが、今回の買収劇は単なるブランドと品揃えの足し算ではないということです。大規模小売店舗スペースを安価で手に入れ、オンラインとは異なる店舗ならではの様々なデータ取得、複合的に「家」に関わる商品を販売していくエコシステムの構築、そして消費者のノスタルジーを刺激する施策など消費者と店舗の関係の再構築が戦略的に考えられています。
Bed Bath and BeyondのCEOであるMarcus Lemonisはレバノン生まれの移民孤児から自動車産業で富を得て、億万長者となった立身出世のビジネスマンで、自身のリアルティー番組でも知られる企業再生の専門家。意図的に傷んだブランドを安く買って立て直すモデルの彼の手腕によって経営破綻を経験した二つのブランドが改めて実店舗として蘇るかに注目が集まります。
まとめ
Ibottaのデータが示すのは、消費者が単に節約しているのではなく、「何に価値を感じるか」をより意識的に選り分けるようになったということだと言えます。実際のところ、価格では妥協するが、健康に良いものには多少高くても払う消費者も少なくありません。
ThredUpの成長は、「新品=当たり前」という前提が崩れていることを示していて、ZaraのPre-ownedだけでなく、昨今大手ブランドが循環型消費を後押しし始めています。SheinによるEverlaneの買収は、消費者に支持される理念だけではビジネスとしての規模の壁を越えられないという現実を示しました。Bed Bath & Beyondの挑戦はリアル店舗の在り方に一つの答えを導いてくれるかもしれません。
AIが実際に購入まで代行するようになるAgentic Commerce(エージェンティック・コマース)の登場で、消費者と小売の接点も根本から書き換えられていくことになる中、消費者、もしくはAIが求める小売の姿も変わっていくことになると思います。それは、「何を提供し、どのように売るか」だけではなく「誰の、どんな判断に、どう応えるか」ということなのかもしれません。
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